著書『外務官僚たちの大東亜共栄圏 (新潮選書)』が、10月1日(水)「第20回樫山純三賞(一般書部門)」(公益財団法人樫山奨学財団主催)そして、11月27日(木)、「第29回司馬遼太郎賞」(司馬遼太郎記念財団主催)でW受賞!文学部歴史学科の 熊本 史雄 教授にインタビューを行いました。

受賞決定の知らせは、記者会見の直前、夕方4時前に財団から突然の電話で入りました。通常はプレスリリースまで時間があることが多いのですが、今回は最終審査を終えての即日記者会見という異例の速報性だったため、私自身も大変驚きましたね。
本書のテーマの一つは、従来の「軍部が悪玉、外務官僚は被害者」という構図を覆したことです。暗黒期とも呼ばれる昭和戦前期において、悪玉か・善玉かと問われたら善玉と語られがちな”エリート官僚”であった外務官僚たちは、陸軍の“尻ぬぐい”をさせられた被害者であったのだ、というイメージを持たれがちです。しなしながら、彼らもまた、前のめりであり、彼らの判断の誤りが「大東亜共栄圏」という地域秩序観を作り上げていったという、従来の解釈とは真逆のストーリーを描きました。
前作で『幣原喜重郎-国際協調の外政家から占領期の首相へ(中公新書)』を書きましたが、平和外交の象徴とされてきた幣原喜重郎についても、「そこまで善玉とは言えない」という人物像を描きました。これも従来の評価を覆すものとなっています。
歴史学において「実証」は大事ですが、事実がただ羅列されているだけでは歴史の叙述にはならないですよね。読み物として一冊にまとめ、読みやすくすることには注力しました。司馬遼太郎賞の審査員は小説家が多いため、そのような方々から文章や文体、ストーリー展開を評価されたことは大変嬉しいと感じています。
私は外務省の中でも、霞が関ではなく六本木にある外交史料館で丸9年間、明治以来の歴史史料を基に『日本外交文書』という史料集を編纂する仕事に携わっていたんです。この経験から、膨大な公文書に馴染み、官僚の論理や物事の決め方を肌感覚で理解できたことが、歴史研究における他の研究者とは違った強みになったと思っています。
応募したきっかけは、外交史料館の顧問(編纂委員)の先生や、恩師からの勧めや推薦でした。特に、顧問の先生から「駒澤大学の学生の雰囲気がいい」「講演会でも真面目に話を聞いてくれた」と勧められました。
歴史学は地道な積み重ねが大事で、駒澤大学には「コツコツやる」ことができる学生が集まっていると感じます。外交史料館時代も、大学で教えることになるのなら、特に歴史学科で教えてみたいと考えていましたので、本学で教えられることは大変ありがたいですね。

実は執筆時、大病を患ったんです。そのさなかで、本書を執筆することは、そのときの私にとっての楽しみでもあり癒しでもあって、「これを書かないうちには死ねない」という強い思いがありました。この本を書き終えた時点で、満足感はすでにありましたので、受賞は何というか、おまけやご褒美という感覚に近しいかもしれません(笑)。
自分自身以上に、妻や教え子、卒業生、院生たちが大変喜んでくれたことが、何よりも嬉しくありがたいと感じています。この受賞を機に、より多くの人に読んでもらえたら、さらに嬉しいですね。
『幣原喜重郎』を執筆した際、君塚先生からすぐにメールで賞賛と激励を受けました。その際、君塚先生に今回の本の構想を話したところ、新潮社への出版を推薦してくれて、その日のうちに繋いでくださって。今回の出版における大恩人です。君塚先生には、いつも何かと気にかけていただき、同僚として共に働けることを嬉しく思っています。

作中で描かれる80年~100年前の大国のナショナリズムやエゴイズムは、現在のロシア・ウクライナ戦争や中東情勢などととても酷似して見えますよね。それは、「病理」と呼ぶべきナショナリズムやエゴイズムに突き動かされて国益を追及しようとする、大国(に限らないのですが)の行動原理が、我々の目の前にさらけ出されているからだと思います。“歴史は繰り返す”というフレーズがありますね。厳密にいえば、出来事は一回性なのですから、歴史は繰り返さないのです。ですが、その出来事に胚胎する原理や構造は、過去の出来事のそれと同じようなものであるため、“繰り返す”と言えるのです。読者のみなさんには、本書に書かれていることを単に80~100年前の出来事だとして捉えるのではなく、現代的な課題として受け止めてもらいたいです。
「慎慮(しんりょ・慎み深く結果を考慮してあれこれ考えること)」が政治には大事であり、読者の皆さまにも考えてもらえれば何よりです。

文学部歴史学科日本史学専攻 熊本 史雄 教授
山口県生まれ。筑波大学第二学群日本語・日本文化学類卒業、筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科日本史学専攻中退。2008年4月~2014年3月駒澤大学文学部准教授、2013年4月~2014年3月、ロンドン大学LSE(ロンドンスクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス)国際政治史学部 客員研究員。2014年4月より、文学部歴史学科日本史学専攻教授。