経済学部 清滝 仁志 准教授

政治思想史は社会科学系学部において学生から最も縁遠い科目になっているのではないか?学会に行っても、よく知らない昔の思想家の著作について難解な話をしている発表が目立つ。私はシンクタンクの会員でもあるが、他の先生が経済政策の分析や労働問題の現状を語るのに対し、肩身が狭い。思想にこだわりをもつ共産党ですら自衛隊の賛否について明確な議論をしない現在、政治の場で思想を語る場は限られている。英米仏独伊加の政治の専門家がいるのを幸いに、その機関誌で政治の言葉の国際比較を連載してみた。リベラル、保守など政治的立場を示す言葉が先進各国でどのように用いられているかを先生方に論じてもらい、比較をおこなうことで、日本における政治の言葉の特徴を明らかにした。 日本は他国に比べて曖昧で、感情的である。例えば、安全保障問題での現実主義的立場をとると保守派といわれるが、先進各国の主要政党のほとんどが保守派となってしまう。リベラルという言葉の用法は米に近いが、日本の場合、現在の政治体制の根本的変革をめざす極端な左派をも含み、政治的立場の区別がつかない。 深海魚のたぐいをマグロやタイにしてしまう寿司屋で、本当の魚の味がわからなくなるのと同様、言葉を曖昧に用いる国では、しっかりした政治の議論ができない。日本では政治の中身よりも清新なイメージが好まれる傾向が昔からあるが、新しければマグロやタイの正体にこだわらないのと似てなくもない。政治思想を学ぶことは、寿司のネタをきちんと判別するのに通じていると言えようか
※ 本コラムは『学園通信329号』(2017年10月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。