法学部法律学科 髙田実宗先生インタビュー

駒澤大学の全学生が、その年度の全開講授業の中から一票を投じる「学生が選ぶベスト・ティーチング賞」。2016(平成28)年度に開始したこの制度では、学生FDスタッフが主体となって、学生目線で「授業内容が工夫された授業」を選び、年々盛り上がりを見せています。
2020(令和2)年度に「学生が選ぶベスト・ティーチング賞」を初受賞し、2024(令和6)年度に殿堂入りを果たした法学部法律学科の髙田実宗先生。髙田先生が担当する「行政法」について、授業への思いや具体的な工夫についてお聞きしました。行政法への「愛」があふれるお話をお楽しみください!
――髙田先生の「行政法」の授業が令和2年度、3年度、6年度と「ベスト・ティーチング賞」を受賞され、三度の実績により殿堂入りとなりました。おめでとうございます!
髙田准教授:
ありがとうございます。私はとにかく行政法が好きなので、共感してもらえたのかと思うと嬉しいですね。自分が楽しく行政法について語っている姿を見て「楽しい授業だな」と感じてくれた学生さんがいたのでしょうか。私たち大学教員は教育のプロではなく、高校までの先生方とは違って教員免許も持っていません。そのため、私の授業もそうですが、大学の授業は教科書を棒読みする伝統的なレクチャー方式や、自分が知っていることをただ喋る一方通行な講義になることも多いです。「学生が求める教育手法を教員の間で共有し、大学教育の質向上につなげたい」との思いから、法学部の故・田中優企先生が学生FDスタッフとともに「ベスト・ティーチング賞」を創設されたと聞いております。

――「ベスト・ティーチング賞」は、単なる人気投票ではないのですね。
髙田准教授:
はい。大学教育を改善していくというのが、この賞が持つ真の意義だと思います。そのため、受賞した先生方が講師となって「教え方」を共有する研修会も開かれています。私も去年、その研修会に登壇しました。あっ、これがそのときのレジュメです。

――「行政法」はどのような授業ですか?
髙田准教授:
法学部法律学科の主に2年生が履修する授業です。行政法といっても、憲法や民法のように1つの法典があるわけではなく、行政に関わる2,000本以上の法律を対象とする学問です。電動キックボードで話題になっている道路交通法や、飲食店営業を司る食品衛生法、ホストクラブやキャバクラを扱う風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)なども行政法です。公務員試験でも重要な科目の1つで、法や行政の道を志す人には必須の学問なのですが…行政法の勉強は、法学の中でも格段に、つまらないです(キッパリ)。
――キッパリ言い切りましたね。
髙田准教授:
行政法に共通する原理・原則を学ぶとなると、どうしても抽象的な話になるので、面白さを感じにくいのではないでしょうか。教科書も難しいですし……あっ、私は大好きなんですけどね!
――髙田先生は、なぜ行政法が好きなんですか?
髙田准教授:
行政法は、世の中を実際に回しているルールそのものです。知っていれば得をするし、知らなければ損をするものもあります。行政法で扱う物事は身近なものが多く、本音と建前がせめぎ合っています。社会の現実と照らし合わせて法を見るのは面白いです。
――その面白さを普及させたい?
髙田准教授:
行政法への愛をひたすら表現しているだけです。まぁ、行政法は宗教みたいなものなので、布教になるのかな(笑)。

――「行政法」では、ホストクラブやコンセプトカフェなど、そういう話題が取り上げられると聞きましたが?
髙田准教授:
風営法が一番ウケますね。建前と本音のギャップがあり、法の抜け道を突くギリギリな事案が世の中には山ほどあります。地上波では放送できないグレーな話、大学生は興味津々です。
――例えば?
髙田准教授:
ホストクラブやキャバクラには風営法が適用されるので、営業場所や営業時間の許可を取るのが大変です。その厳しい規制から逃れて、飲食店という建前で営業しているのがガールズバー。執事やメイドがいるコンセプトカフェも飲食店という建前です。飲食店になると食品衛生法が適用されるので規制が緩くなります。もちろん、その実態が風俗営業の場合には、風営法の厳しい規制が適用されます。
――風営法について気になります!
髙田准教授:
例えば、今は「No.1ホスト」という呼称はダメです。お客さんが推しメンをNo.1にさせるために無理に貢ぐケースが社会問題化したこともあり、悪徳業者を規制するために風営法が2025年6月に改正され、そのようなアピールが禁止されました。
それで、歌舞伎町のホスト看板も「No.1」部分を黒塗りにせざるを得なくなり、今は「社長」や「専務」といった呼び名に変えてもアウトです。そうすると、高級ブランドの定番香水に似せたラベルで「N°1」とか書いた香水瓶を、ホストが手に持っている写真の看板が現れるわけです(笑)。規制しても抜け道を見つける悪知恵が必ず出てくる。行政法の世界はいたちごっこです。
――行政法はすぐそばにあるんですね。
髙田准教授:
学生から最新のタレコミを貰うこともあります。自分の生活に近い法律だと気づくと、行政法を面白く感じられるのかもしれません。
――「行政法」の授業は、年度初めから盛り上がりそうですね。
髙田准教授:
いや、それどころか、4月はお通夜みたいに静かで、5月の連休明けに一気に学生さんは少なくなります(笑)。そのタイミングで「ドラマを見て、行政法の観点から2,000字程度のレポートを書く」という課題を出します。単位取得にはレポート提出が必須だから、学生が「ドラマを観るだけなら行くか」と戻ってくるんです。
――どんなドラマですか?
髙田准教授:
ある最高裁判所の判決をモチーフにしたドラマですが、コンプラに反するエピソードばかりですので、ちょっと教えられません。
――「行政法」の授業をきっかけに、行政法の沼にハマる学生もいそうですね。
髙田准教授:
もちろん授業では風営法以外の法律も取り上げます。行政法の教科書の内容をしっかり押さえていますし、「判例百選」に則って最高裁判所の判例を扱います。
行政法とは、自分たちの生活を守るための法律です。そしてこの「行政法」という授業は、一言でいうと、「国家権力を暴走させることなく、法で縛り、日本国憲法が謳う人権保障を確実にするためにはどうしたらいいかを学ぶ授業」です。なーんか抽象的ですよね、難しそうですよね。そこで、社会問題や身の回りのニュースを持ち出して、行政法的な視点と結びつけて考えられるような授業にできないかと工夫しています。
――昔から工夫満載な授業をしていたのですか?
髙田准教授:
いや、ぜんぜんです。
――ラジオ番組仕立ての展開も好評ですが、どのようにスタイルを確立していったのですか?
髙田准教授:
コロナ禍で授業がオンラインになった2020(令和2)年度に、初めて「ベスト・ティーチング賞」を受賞しました。オンデマンド配信でパソコンに向かってひとり言のように喋る授業が寂しくて、ふと「オールナイトニッポン」のテーマソングを流してみたんです。それから、ラジオ番組にはお便りコーナーがあるなと思い、テストの自由記述欄に学生が書いてくれた話題を読み上げるようになりました。それが落語でいう枕(噺家が冒頭に織り交ぜる雑談)のように、後に続く本題を理解するための前提となり、かつ、学生同士の共感や行政法への親近感を生み出すことにもつながったのではないかと思っております。

――その工夫が「ベスト・ティーチング賞」を引き寄せたんですね。受賞した時はどんなお気持ちでしたか?
髙田准教授:
あまり目立ちたくなかったんですけどね。しかし、授業を通じて、行政法を身近に感じてもらえたなら嬉しいです。今年度は対面授業とオンデマンド授業を織り交ぜましたが、どちらの授業でも、行政法について学ぶべきことをしっかり伝えられるようにしています。まぁ、オンラインよりも対面の方がギリギリなエピソードは話しやすいです(笑)。
――学生や受験生に向けてメッセージをお願いします。
髙田准教授:
好奇心を大切にしてほしいです。気になることや好きなことは、誰かに指示されなくても勝手に調べちゃうものだと思います。「なぜライブハウスではワンドリンク注文しないといけないの?」とか「なぜタバコを売っているコンビニと売っていないコンビニがあるの?」とか、身近な疑問が発端となって、行政法の勉強が面白くなっていくと思います。自分が調べて知ったことは、誰かに話したくなりますよね。友達と意見交換して、考えをさらに深めていってほしいです。「行政法」のテストでは自由記述欄を設けているのですが、A4用紙1枚に細かな字でみっちりとエッセイのようなレポートを書き込んでくる学生も多いです。行政法の視点で世の中を見られるようになっていると思いますし、私自身も知らないことを知ることができてありがたいです。
ところで、パチンコ店は風営法で深夜営業が原則禁止されているのですが、三重県に限り、年末年始には規制が緩和されてオールナイト営業が許可されているそうなんです。どうしてかわかりますか?
――三重県だけですか? なんでだろう?
髙田准教授:
フフフ……ヒントは伊勢神宮。これも学生がテストの答案で教えてくれました。
――えっ、知りたいです!

――殿堂入りした「行政法」の展望について教えてください。
髙田准教授:
自分の研究成果を反映して、もっと軽やかに行政法を教える授業へと変えていきたいです。とはいえ、公務員試験にもきちんと対応する必要があるので、基本や定番はしっかり押さえつつ、今の時代を生きていく学生に自分ごととして響く展開で、行政法の原理・原則を理解できるようにしなければなりません。
駒大生は真面目で、個性的な人が多いので、そんな人たちがうっかり行政法の沼にハマってしまうような授業を続けていけたらと思います。