駒澤大学が”もっと”好きになるWebメディア

駒大クエスト

種月館の地下には何が?
最先端医療を支える「リニアック室」の秘密

  • 医療
  • 健康
  • 教育
  • 授業
  • インタビュー

2018年、駒澤大学開校130周年記念棟として竣工した「種月館(しゅげつかん)」(3号館)。大小さまざまな教場、自習やグループワークに使えるラーニングスペース、開放的なラウンジ、種月ホール、メニュー豊かな学食「Kitchen駒膳」などがあり、快適な設備を整えている教場棟です。しかし、種月館に足繁く通う駒大生でも、毎日通う食堂の真下に何があるか、考えられる人は意外と少ないかもしれません。
そこには、がんなどの放射線治療に向き合う最前線の拠点があるのです。

駒澤大学 – VARIAN(バリアン)放射線治療人材教育センター

エレベーターの扉が開くと、地上階のにぎわいと一線を画すように、シンと静まり返った通路が伸びています。そこに、日本の最先端医療の一翼を担う教育研究設備「リニアック室」があります。医療健康科学部の学生や、大学院 医療健康科学研究科の大学院生、関係する教員以外は立ち入る機会がない、多くの学生にとっては未知なる区域です。

リニアック室は別名「駒澤大学 – VARIAN放射線治療人材教育センター」といい、診療放射線科学の専門的な知識と技術を修得するために設けられている施設です。室内の中央には、世界トップシェアを誇る放射線治療システムのリーディングカンパニーである、株式会社バリアン メディカル システムズ(以下、「バリアン社」)の最新鋭機器「医療用直線加速装置 TrueBeam®」が配置されています。

メーカーが威信をかけて開発する最先端の放射線医療機器

医療健康科学部の遠山尚紀教授に、リニアック室を案内していただきました。

遠山教授:
「リニアック」の正式名称は「直線加速器(Linear Accelerator)」で、その頭文字をとっています。電子を加速させて、がん治療に必要な放射線(X線や電子線)を作り出す装置です。現在、日本全国の医療機関に約1,000台、複数設置している施設もあるので、施設数でいえば800施設ぐらいだと思います。一般的に、診療放射線技師を育てる大学の多くは自前のリニアック装置を持たず、附属病院などで実習を行います。また、附属病院を持つ大学であっても、装置はあくまで「患者さんの治療」が優先。学生が触れられるのは、診療業務が終わった後の限られた時間だけというケースがほとんどです。しかし、本学は違います。ここにあるのは、教育と研究のためだけに設置された「専用」の装置です。この贅沢な学修環境こそが、次世代の医療人を育てるための「理想のカタチ」なのです。

2018年当時、バリアン社の「TrueBeam®」が教育専用に設置されているのは、日本全国の大学の中で駒澤大学だけでした。現在は、他大学にも設置されているものの、バリアン社との強固なパートナーシップにより、「大学にありながら、常に世界最新の状態に保たれた装置」で学べる。これは駒澤大学が誇る、唯一無二の教育環境です。

リニアック室内の通路の壁には駒澤大学とリニアック室の歴史を紹介するパネルが飾られています。

遠山教授:
この通路、まるで迷路のように折れ曲がっていますよね。実はこれ、放射線を物理的に閉じ込めるための「迷路式(クランク構造)」という特殊な設計なのです。リニアック室は厳密な安全管理のもと、分厚いコンクリート壁で強固に覆われています。室内で発生した放射線をこの壁に何度も反射(散乱)させることで、そのエネルギーを極限まで減少させ、外部への漏洩を限りなくゼロに抑える仕組みです。
遠山教授:
リニアック室は産学共同利用の形態で運用されており、バリアン社による同様の装置を導入している医療機関の医師、診療放射線技師、医学物理士への講習に使用するほか、製品性能試験を行うためにも利用されることもあります。つまり、本学にある「TrueBeam®」はバリアン社にとって最新の状態でなくてはならないのです。そんな、臨床現場と同等、あるいは現場以上に最新鋭の装置を使って本学の学生は演習や研究を行うことができるのです。

診療放射線技術科学科での実践的な学び

放射線医学の領域で、私たちに最も馴染みがあるのが、健康診断や整形外科などで受けるレントゲン撮影やCT検査です。この「放射線を人体に照射する」行為は、医師、歯科医師、そして診療放射線技師だけに許されています。その中でも、医療における放射線の専門的な知識と技術を身につけているのが診療放射線技師で、医師からも頼りにされる専門職です。本学の医療健康科学部 診療放射線技術科学科では、放射線医療の道を志す学生が多数在籍しています。

遠山教授:
私が診療放射線技師として働き始めた二十数年前に比べて、放射線医療はテクノロジーの進歩とともに大きく変化し、放射線治療はがん治療の有効な手段のひとつになっています。低侵襲(患者さんへの負担を最小限に抑える治療)で、手術や入院をせずに外来診療だけで治療することができ、高齢化が進む日本ではますます必要とされていく医療です。さらに、今増えている乳がんや前立腺がんなどには放射線治療が特に効果的とされています。未来に向けて、最新鋭の医療を担う優れた技師を育てていくのが、私たち医療健康科学部の務めです。

「TrueBeam®」はどんなところが最先端なのでしょうか。学生はどのように学んでいるのでしょうか。

遠山教授:
「TrueBeam®」には、レントゲンやCT、体表面モニタリングなどの技術を使って身体への照射位置を0.1mm単位で調整する「画像誘導装置」が完備されています。かつては、がんの周辺にも放射線を照射せざるを得なかったものが、今はがんをピンポイントで狙うことができます。本当に、数十年前では考えられなかった技術革新です。
遠山教授:
リニアック室は、主に3年次の「放射線治療技術学実習」や4年次の卒業研究、大学院生の研究などで利用されています。ここでは人体を模した「ファントム」と呼ばれる実験用模型や測定機器を用いて、実際に放射線を当てて線量を測ることができます。線量の測り方の他にも、放射線の当て方、基礎的な治療計画の立て方、実際に固定具を使ってどのように患者さんを台に固定させるかなど、現場さながらの実践的なトレーニングを重ねています。教科書で学んだ理論を、学生一人ひとりが実体験に変えられる場なのです。

「一生涯、学び続けられるホーム」という環境

遠山教授は、「診療放射線技術科学科では、卒業後に大学院に進学する割合が高い」と話します。また、駒澤大学のリニアック室は、現場に出てから新たな技術や学びを身につけたい方を受け入れるリカレント教育の拠点としても機能しています。

遠山教授:
学部卒業時に診療放射線技師の国家資格を手に入れたからといって、がん治療の最前線で放射線治療に携わることができるかというと、それはまた別の話です。放射線医療の中には、レントゲンやCTなどの画像検査・解析もあれば、高度な放射線治療の領域もあります。治療の精度を維持するための放射線計測や品質管理、治療計画の立案などに携わるために、高い専門性を身につけようと考えて大学院に進学する人が多いです。医療健康科学研究科修士課程の遠藤一颯さんは、まさに今、大学院修士課程に進学して研究を続け、医学物理士を目指しているところです。

医学物理士とは放射線医療を安全に提供するために、放射線の線量や品質の管理を行う専門職で、国際的な資格として知られています。臨床現場で医師や診療放射線技師が安心して治療できるように、その役割を担っています。遠山教授自身も医学物理士で、医療機関に勤務していた頃には、医師から治療計画について意見を求められるなど、頼りにされていたそうです。

修士課程で研究をしている遠藤一颯さんにもお話を伺いました。

医療健康科学研究科 修士課程 1年 遠藤一颯さん
遠藤さん:
高校生の頃に観たテレビドキュメンタリー番組で放射線治療について知り、感銘を受けたことで、診療放射線技師を目指すようになりました。他大学にも合格していたのですが、リニアック室の環境や教育体制に魅力を感じたのが駒澤大学を選んだ理由です。そして学部4年次に遠山教授が駒澤大学に着任されて、ご指導いただく中で、さらに深く学びたいと考えて大学院に進学しました。
学部卒で就職する道もありましたが、最先端の医療現場で通用する専門技術を身につける重要性を私自身は強く感じています。今は、国立がん研究センター中央病院でアルバイトもしています。
遠山教授:
病院で勤務する診療放射線技師は患者さんと接しますが、医学物理士は裏方のサポートがメインになります。医師や診療放射線技師の方の疑問や不安を払拭して、患者さんに適切な医療を届けるために不可欠な存在です。駒澤大学リニアック室は、学生にとっても現役の医療従事者にとっても、「一生涯、学び続けられる場所(ホーム)」です。在学中から本物の治療装置「TrueBeam®」に触れ、失敗を恐れずに何度もシミュレーションを繰り返すことで、現場に出たその日からスムーズに業務に入れる自信が身につきます。遠藤さんのように「もっと極めたい!」という学生は大学院に進学し、さらに専門性を研ぎ澄ましています。そして、リニアック室はバリアン社が最先端の環境を整えており、全国の医師や診療放射線技師、医学物理士たちが最新技術を学ぶ研究の場としても機能する、産学連携拠点と言えるでしょう。

種月館の地下には、日本の放射線治療技術を牽引する「拠点」がありました。
人々の健康を、文字通り「縁の下」から支えてくれているのです。

  • 取材内容は2026年2月時点のものです。
いいね
7
爆笑
0
役立つ
0
びっくり
0
  • LINEで送る
  • Xでシェア
  • Instagramでシェア
リンクをコピーしました!