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【対談】命と向き合う――医療と仏教〈前編〉

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シーメンスヘルスケア株式会社 代表取締役社長
櫻井 悟郎 氏

駒澤大学
学長  村松 哲文 


シーメンスヘルスケア株式会社と駒澤大学は、CTやMRIといった高度な画像診断に携わる人材を育成することを目的に「駒澤大学―SIEMENS Healthineers画像診断人材教育センター」を共同で設立します。この連携事業を記念し、同社の代表取締役社長 櫻井悟郎氏と本学学長 村松哲文の対談を実施しました。

 

『命=時間』

 

――今回は医療と仏教に共通する「命」をテーマにお話いただきたいと思います。まずは櫻井社長、命ということについてどのようにお考えでしょうか。

櫻井社長:ヘルスケア企業のトップとして、命と向き合うということは常に意識しています。 シーメンスヘルスケアに入社する前、私は製薬会社でがんの治療薬のマーケティングに携わっていました。二人に一人ががんになるといわれるなか、そうした患者さんを救うことに人生をかけてみようと思ったんです。お会いした患者さんやご家族から「あなたたちの薬のおかげで命が助かりました」「いい時間を過ごすことができています」といったお言葉をいただくこともあり、本当にいい仕事を選んだと思いました。私自身は医療従事者ではありませんが、医療を支えるプレイヤーとして貢献できていることにやりがいを感じていたんです。そこからシーメンスヘルスケアという医療機器メーカーに移ったきっかけは、父をがんで亡くしたことです。製薬会社で多くの患者さんの役に立てたという自負がありましたが、自分の父親を救うことはできなかった。早く見つけて正しい治療を施すことができれば、もっと多くの命を救えるんじゃないか。父の死をきっかけに早期発見の重要性を身に染みて感じるようになり、画像診断技術において、世界的なリーディングカンパニーであるシーメンスヘルスケアに入社しました。

 

――ご自身の体験が、今のキャリアに直結しているんですね。村松学長、いかがでしょうか。

村松学長:いまの社長のお話ともつながる部分がありますが、「命とは時間」だと思います。大学が学びの場であるということを考えると、学生が自分の命=時間を無駄にしない、大切に使えるようになることはとても重要です。 自分の時間だけではありません。他者を思いやることを仏教では「慈悲」といいますが、他の人の命=時間を慈しみ、大切にする気持ちを持つことが必要ですし、そうした意識を涵養していくことは、大学教育の大きな役割の一つだと考えています。

 

――時間の大切さ、有難さは歳を重ねるほど実感していくものですが、学生時代のうちにそれに気づくのが重要だと。

村松学長:実際にはなかなか難しいんですけどね。10代や20代のうちは自分がいつか死ぬなんて想像もしていませんから、時間はいくらでもあると勘違いしている学生がほとんどだと思います。もちろん、学生時代ならではのムダや余白も大切ですが、時間の有限性に気づくことができれば、その先の人生はより豊かなものになるはずです。  仕事にしても何にしても、たとえば嘘をついてその場をやり過ごすような態度は、相手のかけがえのない時間=命を奪っているのと同じだと思うんですね。それでは誰からも信頼されないし、自尊心を得ることもできない。ですから、時間を意識することは相手を思いやること、慈悲の気持ちで人と接するということにつながるのではないかと思います。

櫻井社長:他人の時間を奪ってはいけないということは私も常に意識していて、そのために重要なのが「準備」だと考えています。会社では会議というものが少なからずありますが、それを何の準備もなく始め、だらだら進行して、結局何も決まらなかったとなると、出席した人の有限な時間を奪ったことになります。 いまの学長のお話につなげると、私は、準備は思いやりだと思っています。誰もがプライベートな時間や家族との時間をやりくりして仕事の時間を捻出しているのですから、その時間をできる限り有意義なものにしなければいけない。そういう意識で日々仕事をしていますし、社員にもそれを望んでいます。

『「悟り」とは何か』

 

――仏教が命を大切にする教えであることはよく知られていますが、これはそもそもなぜですか。

村松学長:大乗仏教では、生きとし生けるすべてのものは仏の心を持っていると考えます。でも、ほとんどの人はそのことに気づかずに日々を過ごしている。たとえば人を殺してしまったような人に対しても、根っからの悪人ではなく、自分に備わっている仏の心に気づけなかったんだという風に考えるんです。

櫻井社長:私はちょっと間違って理解していたかもしれません。努力して修行を積めばいつかは仏になれる、ということではないんですか。

村松学長:行いとしてはそういうことなんですけど、仏じゃないものが仏になるのではなく、自分がもともと仏であることに気づくということですね。ほとんどの人はそれに気づかずに迷っているけど、気づくことができれば仏になれる、というイメージです。

櫻井社長:なるほど。では、「悟る」というのはどういうことですか。

村松学長:悟りについては数多くの説があって一般化するのは難しいのですが、あえて言うなら、「真実に気づく」ということになるかもしれません。 釈迦が修行に出た理由は、生老病死という、人間であればだれもが直面する苦しみを克服するためだったと言われています。かれはそれを克服し、言い換えれば悟って仏陀になったわけですが、その方法は「苦しみから逃げない」ということなんですね。 生きるという苦しみ、老いていくという苦しみ、病気になるという苦しみ、死という苦しみ。それらから目をそらさず、真正面から向き合う。するとやがて真実が見えてきて、苦しみや恐怖はなくなるという風に言われています。

 

『学びの極意』

 

櫻井社長:すごく共感します。私はいま社長という役職にいるので、弊社の社員は私のキャリアを成功の連続だと思っているかもしれませんが、実際には失敗の連続、まさに苦しみの連続でした。配慮が足りなくて相手を怒らせたり、逆に良かれと思ってしたことで傷つけたり、思い出すだけで顔から火が出るほど恥ずかしい失敗を重ねてきました。会社や組織にはさまざまな人がいて、社会情勢や外部環境も常に変化します。すべての問題を解決する明確な答えが必ずしもあるわけではなく、ほとんどの場合、その都度その都度で最適だと思われる決断をしていくしかありません。すると、その時は最適だと思ったことが、振り返るとそうではなかったと気づくこともあります。それは仕方のないことではあるのですが、自分の責任や未熟さを突き付けられたようで、非常に辛い思いをすることが多々ありました。しかし、そんな経験を人一倍してきたからこそ、多くを学ぶことができたとも思っています。それが悟りへの修行なのかどうかはわかりませんが、失敗から目をそらさずに、苦しさや辛さと向き合ってきたことで、意思決定の精度は上がってきたように感じています。

村松学長:それはもう、限りなく悟りに近付いておられますね。

櫻井社長:いえいえ、いまも迷いの日々です。でも、チャレンジするということは忘れないようにしたいですね。チャレンジには勇気がいりますし、失敗すれば傷つき落ち込むこともありますが、そこからしか得られない学びが必ずあると思いますので。

村松学長:おっしゃる通りです。失敗したところから学ぶのが、いちばん大きな学びですよね。中学や高校でどのように勉強していたかを学生に聞くと、たまに、答えを見ながら課題をやっていたという子がいるんですよ。いまの時代、見ようと思えばインターネットですぐ出てきますから。でも、そうやってやった課題は、答えは合っているかもしれないけど、自分には何も残りません。成績が上がっていく子というのは、自分が間違ったところを見返して、なぜ間違えたのかを反省することから始めると思うんです。逆に成績が上がらない子は、悪い点数の答案が返ってきたら見ないでそのまま捨ててしまうから、同じ間違いを繰り返してしまう。社長のお話とはすこし次元が違いますが、学びの根底には、自分にとってイヤなもの、見たくないものから目をそらさないということがあるのではないでしょうか。

 

 

 

『駒澤大学を選んだ理由』

 

 

 

――今回の「駒澤大学―SIEMENS Healthineers画像診断人材教育センター」は、シーメンスヘルスケアの社員の方と駒澤大学の学生が共同で利用されるそうですが、なぜ、こうした施設をつくろうと思われたんですか。

櫻井社長:われわれの会社はCTやMRIなどの医療機器を病院などの医療機関にご提供していますが、社員がこれらの装置を取り扱うには、一定期間のトレーニングを受ける必要があります。トレーニングを受けて「免許皆伝」しないと、納入した装置の修理やメンテナンスをすることができません。いままで日本のエンジニアはドイツ本国でトレーニングを受けていたのですが、今後日本だけでなくアジア各国のエンジニアやサポートスタッフが増えていくことが予想されたので、日本にもトレーニングセンターが必要であろうと考え、2023年頃から構想に着手しました。

 

――駒澤大学を連携先に選んだ決め手は何だったのでしょうか。

櫻井社長:国内外からのアクセスの良さ、という地理的条件も必要でしたが、それ以上に惹かれたのは駒澤大学様の取り組みです。大学自体の歴史はもちろん、医療健康科学部には前身を含めて長い歴史があり、実践的な教育によって医療従事者を育成しようという姿勢に強く共感しました。また、日本におけるSiemens Healthineersの一員であるバリアン メディカル システムズとの共同施設「放射線治療人材教育センター」があるというのも大きな安心材料でした。実際に患者さんと向き合っていらっしゃるのは、診療放射線技師をはじめとする医療従事者の方々です。その医療従事者を育てている駒澤大学様と連携するということに、本当に大きな意味があると思っています。

 

――このお話を聞いたとき、学内はどのような反応でしたか。

村松学長:医療健康科学部の教員をはじめ、みんな「ぜひ進めましょう」という感じでした。しかし、生命に関わる医療機器でもあり、大きな責任を伴う事業なので不安もありましたが、医療は大乗仏教でいう「利他行」(他者の利益のための行い)と捉えられるので、今は期待感の方が圧倒的に大きいです。

『【対談】命と向き合う――医療と仏教〈後編〉』はこちら >>>

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