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【対談】命と向き合う――医療と仏教〈後編〉

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左から、村松哲文学長、櫻井悟郎社長

『医療の2040年問題』

 

――日本社会では少子高齢化が進行していますが、それに関連して医療分野ではどのような課題が挙げられますか。

櫻井社長:課題はたくさんありますが、なかでも重要なのは「2040年問題」ではないでしょうか。日本はこの先人口が減少していく一方で、高齢者人口は2040年頃にピークを迎えるとされています。人口の多い団塊ジュニア世代が高齢者となるためで、それにより医療や介護の需要がさらに高まることが予想されます。医療の現場では、こうした人口構造の変化がより顕著に表れます。高齢の患者さんがどんどん増えていく一方、労働人口の減少により、その患者さんをケアする医療従事者の数は少なくなっていく。人手不足が深刻化するわけです。その対策として、医療従事者を育成することが重要なのは言うまでもありませんが、同時に医療機関同士のデータ共有やオンライン診療、AIを活用した診断データの解析といった「医療DX」による効率化を進めていくことが、医療現場にとって喫緊の課題となっています。

櫻井社長

 

 

 

『大学の役割』

 

 

――人口構造の変化は大学の運営にも影響してくると思いますが、これからの社会における大学の役割についてどのようにお考えですか。

村松学長:大学は研究機関であると同時に教育機関ですので、これから社会に出ていく人を育てるということ自体は変わりません。ただ、これまでの大学は「マスプロ教育」というか、学生に「大卒」というラベルを貼って社会に送り出すような意識がどこかにあったように感じています。 しかし、18歳人口がこれだけ急激に減少している現状では、「大卒ラベル」や専門知識だけでなく、人として成長するきっかけをどれだけ提供できるかが重要になってくると思います。そのためには、「大量生産」ではなく、一人ひとりの学生と丁寧に向き合うことがどうしても必要です。 特に駒澤大学は仏教の大学なので、どのように生きていくかを考えてもらうような「人としての教育」を今まで以上に意識する必要があると考えています。

 

――大学には既に働いている人やリタイアした人の学び直し、いわゆる「リカレント教育」の場という役割も期待されています。

村松学長:おっしゃる通りです。「人としての教育」の延長線上にあるのがまさにリカレント教育で、学校を卒業された方や地域の方が改めて学びたいと思ったときにその機会を提供するのも、大学の非常に重要な役割だと思っています。

 

『仏教を学ぶ意味』

櫻井社長:本日の対談を経て、仏教への興味が沸き、機会があれば体系的に学んでみたいと感じたのですが、一般向けに公開されている講座はあるのでしょうか。

村松学長:はい、駒澤大学ではだれもが受講できる公開講座を定期的に開講しています。さまざまな分野がありますが、やはり仏教の講座を受講される方が多いですね。なかには何年も通ってくださる方もいて、以前その方に受講している理由を聞いてみたことがあります。有名な企業の社長をされていた方なのですが、その方が言うには、会社で一生懸命働いて蓄えはたくさんできた。でも、退職して毎日家にいると、何もすることがない。働いているときは会社のため、社会のためということで頑張ってきたけど、それがなくなると、自分が何で生きているのかわからなくなり不安になったそうです。そんな時に、知り合いの経営者が仏教を学んでいたのを思い出して、何の気なしに受講したところ、のめり込んでいったとのことでした。ふつう、知識や学問というのは何かのための手段だと考えがちですが、学ぶということ自体が人生の目的になるんだということを私自身が教えられました。

櫻井社長:いいお話ですね。リタイアした方はもちろんですが、仏教を学ぶこ とは現役世代にもすごくプラスになるように思いました。私自身もそうです が、多くの人がさまざまな葛藤やストレス、プレッシャーと向き合いながら 日々を過ごしている昨今の世の中で、何千年も前から伝わっている仏教の思想 を学ぶことは、その時間の中にいまの自分を置き直し、相対化することにつな がるように思います。それによって、心の問題を抱えている人や働きたくても 働けない人が、生きるヒントを見つけたり、気持ちが軽くなったりということ もあるのではないでしょうか。

村松学長:おっしゃる通りだと思います。講座を受けるのは難しい方でも、近くのお寺の境内を歩いたり、仏像を拝観するだけでも普段とは違った気持ちになると思いますので、ぜひ、すこしでも仏教に触れる機会をもっていただければと思います。

櫻井社長

 

 

 

『人を育てるということ』

 

 

 

――お二人はそれぞれ企業と大学のトップという立場におられますが、人を育てる上でもっとも意識されていることは何ですか。

櫻井社長:人を育てるのは本当に難しいです。人材育成はどんな組織でも大事にしていると思いますが、100パーセント満足できる状態まで成功しているケースは多くないように感じます。私自身もこれという答えを持っているわけではないのですが、意識しているのは「機会を与える」ということですね。基礎的な知識や自分の経験を伝えることも必要ではあるのですが、それに加えて、その人自身に経験させることが成長には不可欠だと思います。そこで重要になってくるのが上司やマネージャーの存在です。実際その立場になると、「この仕事はまだ早い」とか「まかせるのは無理だ」と思ってしまいがちなのですが、多少難しいことでもやらせるべきだと私は思います。機会を与えて支援することこそが上司の仕事だと。失敗を恐れてチャンスを与えないというのは、成長する機会をその人から取り上げてしまうことに他なりません。どんどん機会を与えて、その結果失敗してもいいと思うんです。人は成功よりも失敗から多くを学びます。 もちろん、人の命に関わるような失敗は許されませんが、そうでなければ失敗を過度に恐れる必要はありません。最初にお話した通り、私自身、本当に多くの失敗を重ねてきましたが、そこから得た学びが今につながっています。研修やお説教に時間をかけるより、チャンスを与え、その経験によって学ばせることが、人を育てる上ではいちばん重要だと考えています。

村松学長:おっしゃる通り、自分自身の経験や体験から得られる以上の学びはありませんよね。私の専門は仏教美術なので、ゼミ生を指導するときは、座学だけでなく、なるべくお寺や美術館に連れていって、実際に仏像と向き合ってもらうことを重視しています。学問からはすこし離れますが、最近の学生はほとんどアルバイトをしないんですよね。する必要がないのか暇がないのかはわかりませんが、学生のうちに、キャンパスの外の世界を知っておくことも大事だと思うんです。それこそ失敗して怒られたり、お客さんから文句を言われたりすることもあるでしょうけど、そういうイヤな経験をすることで人間ができてくると思うんですよ。いまの学生を見ていると、感情の起伏がすこし乏しいように感じることがあります。何を言っても響かないというか……。スマホの世界に閉じこもっていて、感情を揺さぶられるような現実世界での経験が少ないのがその一因なのかもしれません。硬すぎる太鼓は叩いても響かないので、自分を柔軟にするためにも、とにかくいろいろな経験をしてほしいなと思います。

 

――今回の「画像診断人材教育センター」は、まさにここでしかできない経験の場になると思います。最後に改めて、この施設に期待することをお聞かせください。

櫻井社長:今回設置させていただくのはシーメンスヘルスケアの製品でもフラッグシップといえるような装置です。世界標準の装置で、学生さんや医療従事者の方々、アジア各国のエンジニアがトレーニングを受けていただけるようになると思うと、心の底からワクワクします。 それをこうして駒澤大学様といっしょにやらせていただくというのが本当に嬉しくて、私たちの会社だけでやることの何倍も意味があると思うんですよね。将来、私がどこかの病院で検査を受けたときに、「実は駒澤大学の施設で学んだんです」と聞くことができたら、本当に嬉しいだろうと想像できます。

村松学長:最新鋭の機器を設置していただき、教育研究に利用できるのは、大学としてこんなに嬉しいことはありません。社長がおっしゃった通り、この施設は学生だけでなく、医療従事者やエンジニアの方々も利用されるので、キャンパスにたくさんの研究者が来られるのも本当に楽しみです。このセンターをきっかけに、もっともっと社会に開かれた大学にしていきたいですね。

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