駒澤大学が”もっと”好きになるWebメディア

学びと研究

日曜日のキャンパスに響き渡った、
子どもたちの笑い声と歓声

  • 授業
  • ゼミ
  • インタビュー

文学部 社会学科 鬼塚 香 先生

駒澤大学に40人のハンターが出現! 逃走者は90人の子どもたち。

人気テレビ番組『逃走中』を「大学でやりたい!」という子どもたちの遊びリクエストに応え、130人がキャンパスを走りまわった「逃走中@駒澤大学」は、実は文学部社会学科の鬼塚香ゼミの「学び」でした。サバイバルエリアと化した駒沢キャンパスに、悲鳴と笑い声が響き渡った一日の舞台裏を、鬼塚准教授にうかがいました。

キャンパスでかくれんぼをしたい!?

──大盛況だった「逃走中@駒澤大学」が実施された、経緯と背景を教えてください。

鬼塚准教授:
「大学のキャンパスでかくれんぼをしたい」。世田谷区立等々力児童館の子どもたちにそう言われたことが、企画を詰める決定打になりました。私たちは、福祉のことを障害者や高齢者など対象を限定した特別なこととせず、人がより良く成長するための支援と捉えています。等々力児童館にはゼミ生がフィールドワークのために通い、子どもと一緒に遊んだり遊びを企画したりして、地域で人と人が関わる意義を学んでいます。「逃走中@駒澤大学」もその延長として企画されました。

いつもは学生が児童館に行き、子どもたちの輪に加わっていたのですが、春休みに駒沢公園で鬼ごっこをした際に、キャンパスにも寄ってもらいました。「お姉さんやお兄さんが勉強している大学だよ」と。すると、建物がいくつも並んでいるキャンパスは子どもたちにとってダンジョンみたいに見えていたようで、後日「あそこでかくれんぼをしたい」という声が上がったそうです。そして、本格的にやるなら人気テレビ番組の『逃走中』だ、ということになったのです。

──子どもたちのリクエストに応えたわけですね。

鬼塚准教授:
「学生たちはどういう反応を示すだろうか」と児童館の要望をゼミで伝えたところ、最初はきょとんとしていました。しかし次第に「面白そう」「やろうやろう」と話が進み、世田谷区が推進する「あそび月間」が始まる6月に実施することになりました。

子どもの参加者数は、想定の約2倍

──エリアやルールの設定、演出などは学生が主体となって決めたそうですね。

鬼塚准教授:
子どもたちをキャンパスに招くのですから、安全の確保を最優先しなければなりません。同じ日にキャンパスで開催される別のイベントへの配慮も必要でした。動線がぶつからないように逃走可能エリアを設定し、エリアの境界には「国境警備隊」と名づけられた学生を配置して混乱を予防したり、児童館のスタッフと打ち合わせを重ね、子どもたちが安全に遊べるルールを考えたりしたのは、すべて学生。児童館の子どもたちとも話し合い、それをゼミに持ち帰ってみんなとシェアして準備を進めていきました。

子どもたちを追いかけるハンターももちろん学生です。企画を考案した3年生に加えて、4年生や卒業生、さらに昨年度(2024年度)児童館での活動で連携した経済学部の松本典子ゼミの学生など、総勢40人のハンターがそろいました。

──子どもは90人も参加したとか。どのように募集したのですか。

鬼塚准教授:
募集告知は、児童館が1ヵ月前に発行したお便りだけです。次の月に実施するプログラムの一つとして紹介されただけですが、サングラスをかけたハンターのイラストを添えるなどの工夫が効果的だったのか、問い合わせや参加申し込みが殺到したそうです。さらに子どもたちが学校で友達を誘い、当初50人くらいかと予想した参加者数の想定をはるかに超えました。

──準備を進めていく学生を、先生はどのようにサポートしたのでしょうか。

鬼塚准教授:
キャンパスの使用について大学と交渉したり、求められればアドバイスしたりしていました。

──アドバイザーですね。

鬼塚准教授:
いえ、関係者の一人としての意見です。普段のゼミでも、例えば多数決を取る場合、私は1票しか与えられず、学生と対等。ですから私の考えが却下されることもしばしばあります(笑)。

「逃走中@駒澤大学」でも、学生たちが準備をどんどん進めてくれましたので、私がアドバイスしなければいけない場面は限られました。ゼミではおとなしく過ごしていた学生がルール作りの担当を自ら申し出て、児童館との交渉役を務めるなど、日頃は見られない活躍をする姿に頼もしさを感じました。

当初、可能性として考えた「私が始めから終わりまで段取りを決めないと、実現できないかも」という事態にはまったくならず、気持ちと時間に余裕ができましたので、子どもたちに配る参加記念シールの制作に専念できました。駒澤カラーをあしらったかわいいシールは、なかなかの評判でしたよ(笑)。

子どもと大学生の真剣交渉

──記念品も用意できて、いよいよ本番を迎えられたわけですね。

鬼塚准教授:
平日は学生たちや教職員が行き交うキャンパスを、子どもたちとハンターを合わせて130人が駆け巡る風景は壮観でした。自動販売機と壁のすき間など、大人の目線では考えつかない場所に隠れ、ハンターをやり過ごす子どもの作戦にも驚かされました。

興味深かったのは、あちらこちらで子どもと学生との“交渉”が起こったこと。つかまりたくない子は、自分が逃げ切るためのルール変更を学生に要求してきます。これに対し学生は、「ルールがあるから面白い」というゲームとしての基本をしっかり伝えた上で、適度にお目こぼしをしてあげていたのです。その落としどころが絶妙。参加した子どもの数が想定していた以上だったため、つかまえた子を待機させる、柵で囲った“おり”がぎゅうぎゅうになってしまったときも、その場で解放のルールを決めるなど、学生の臨機応変ぶりに感心させられた一日でもありました。

──子どもたちにはいい思い出ができましたね。

鬼塚准教授:
すでに児童館から「次の開催はいつ?」という問い合わせをいただいていますし、キャンパスで遊んだ一日を、後々まで繰り返し話す子もいるようです。その中で、追いかけるとき以外の時間はサングラスを外していた学生に対し、「ハンターかそれ以外のスタッフかの区別が付かなかった」というクレームが子どもたちから上がったとか。学生たちは「子どもたちは真剣に遊んでいるのだから、私たちもハンター役を徹底しなければいけない」という振り返りをしていました。そしてあの日を境に子どもたちは、児童館に遊びに来てくれるお姉さん、お兄さんを、「駒澤大学の大学生」と認識してくれたようです。

──学生も学ぶことが多かったようですね。

鬼塚准教授:
社会に出れば、自分とは異なる世代や立場の人と一緒に仕事をすることが日常になるはずです。児童館のスタッフや子どもたちと一緒に一つのイベントをやり遂げた学生時代の経験は、自分と異なる立場や世代の人と協働した原体験になるのではないでしょうか。

また  「逃走中@駒澤大学」を無事に終わらせてゼミの雰囲気が一変しました。全員が打ち解けて、誰とでも意見交換ができるようになったのです。「学びが大学内で終わらない」ゼミですから、その後も児童館に限らずさまざまな施設を訪ねフィールドワークを実施しています。みんながそれぞれの役割を果たしてイベントを成功させた過程が、各自の主体性と協調性、他者を尊重する気持ちを育んだようで、いまでは誰と誰がペアやグループを組んでも、フィールドワークから一定の成果を持ち帰ってくるようになりました。

  • 取材内容は2025年7月時点のものです。
いいね
0
爆笑
0
役立つ
0
びっくり
0
  • LINEで送る
  • Xでシェア
  • Instagramでシェア
リンクをコピーしました!