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第35区 村田 渉 講師『MRI技術と放射線教育』

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MRI検査を受けたことがあるだろうか。MRIは「磁気共鳴画像法」といって、強い磁場と電波を使って体内を可視化する検査。レントゲンとは違い、脳や筋肉など軟らかい組織を写すのが得意だ。村田先生は診療放射線技師として医療現場に携わった経験を活かし、MRIの評価や応用の研究、放射線教育の開発・普及活動も行っている。詳しいお話をうかがった。

診療放射線技師とは?

健康診断などでレントゲン写真を撮ったことがあるでしょうか。レントゲン(X線検査)は、放射線を使って体内の骨などを撮影できます。CT(コンピュータ断層撮影)は放射線で体を輪切り状に連続撮影することで、内部を立体的に検査できます。一方、MRI(磁気共鳴画像法)は強い磁場と電波を使った検査で、放射線の被ばくリスクがありません。脳や筋肉など軟らかい組織を撮影するのが得意です。最近は新たな装置や技術によって、脳や血流の変化まで細かく検査できるようになりました。腫瘍の位置や大きさ、脳卒中の診断、靭帯損傷の評価など、多様な病気の診断や治療計画の策定に役立っています。

こうした機器を用いて検査を行い、画像診断、治療を支えるのが診療放射線技師です。私は、もともと機械やプログラミングといった理工系が好きでした。また、人の命を救う医療にも興味がありました。そこでどちらの性質ももった診療放射線技師の道を選びました。授業でMRIの原理を学ぶうち、量子力学や電磁気学が深く結び付いた人間の英知の結晶のような技術に感動し、それをより一層研究したい気持ちが強くなりました。病院やクリニックで診療放射線技師として働きながら、MRIの研究で博士号を取得しました。

医療の現場では、病気を治療する各科の専門医や放射線科医が検査を依頼し、診療放射線技師はその意向を受けて検査を実施します。検査で患者さんに貢献できればお礼を言われることもありますし、撮影がうまくいくよう緩衝材を使って体位を工夫したり、担当医と相談しながら手術の準備に必要な画像を作成したり、非常にやりがいのある仕事でした。

一方で、医療現場ではMRIに関する課題も多く抱えており、改善が必要だと感じることもありました。研究でさらに新しい知見が生まれることで、多くの患者さんの役に立ちます。また、自身の経験をもとに優れた人材を育てることで、医療全体の底上げにも繋がります。そのような思いを抱くようになり、縁あって母校の駒澤大学で働く機会を得ました。現在は、研究に加えて教育の視点からも改めてMRIと向き合う毎日です。

キラキラネイルはMRIが受けられない?

キラキラ輝くネイルアート。実はMRI検査では困りものです。ネイルに使う塗料には微量の金属が含まれることがあり、画像の歪みや、条件によってはやけどのリスクが生じたりする可能性があるからです。マスカラや色素を入れるメイク(アートメイク)、タトゥーなども同様で、場合によっては検査ができないこともあります。基本的に検査前に除去をお願いしていますが、検査後の予定や、せっかく時間と費用をかけて施術したネイルであることを考えると、患者さんにとっては大きな負担や残念さに繋がることもあります。
そこで、事前に適切な説明ができるように、そうした美容製品がMRI検査において画像や身体にどの程度影響を及ぼし得るのかを実験で検証しています。客観的な根拠に基づく説明を事前に行うことで、患者さんが安心して安全に検査を受けられるようにすることが目的です。

さらに医療現場では、骨の固定などに使うインプラントの影響も問題となります。MRIでは磁場を利用するので、素材はもちろんインプラントを入れる場所や大きさ、その角度などによって画像に歪みが出ることがあります。たとえば、金属のチタンは磁性もなく体に馴染みやすい素材で人工関節などによく使われますが、周りの組織と磁化率が違うために歪みが出てしまいます。それを補う技術もありますが、まだまだ十分ではありません。

放射線治療のニーズが最も高いのはがん治療ですが、治療を行う場合はMRIやCTの画像を使ってどの位置から放射線を当てればよいか綿密な治療計画を立てます。特に脊椎周辺の腫瘍では、高精度な放射線治療を行う上で、MR画像で鮮明に描出されているかどうかがとても重要になります。ところが、脊椎がんなどで弱くなった背骨をインプラントで固定した後に放射線治療を計画しなければならないケースでは、そのインプラントがMR画像を歪めてしまうことがあります。その結果、腫瘍の広がりや脊髄との距離が正確に評価しづらくなり、十分な安全域を取りつつ効果的に照射する計画を立てることが難しくなってしまいます。インプラントの材質や形状、入っている位置は患者さんごとに異なるため、「どの症例でもこの条件なら大丈夫」という単純な答えが出ない点も難しい問題です。

そこで、駒込病院との共同研究では、こうした脊椎固定用インプラントがMR画像に与える影響を体系的に評価しています。放射線科医や医学物理士の先生方と議論しながら、インプラントの素材や配置、腫瘍との位置関係、MR撮像のパラメータなど、さまざまな条件についてファントム(人体模型)を使って再現し、どのような組み合わせなら歪みを許容範囲に抑えられるかを検証しているところです。近年は薬物療法などで個別化医療が進んでいますが、こうした条件を踏まえて症例ごとに最適なMR撮像と治療計画を探っていくことも、同じく個別化医療の一部であり、やりがいのあるテーマだと感じています。

オリジナルのカードゲームで放射線教育

日本はCT装置の普及率が非常に高く、必要に応じて質の高い放射線検査が受けられます。また、放射線は半導体の製造など産業にも欠かせないものになっています。しかし、原爆や原子力発電所の事故の影響で、放射線に不安を持つ人が多いこともわかっています。そこで、一般の方たちに向けた放射線教育にも力を入れています。

私が放射線教育に関心を持ったのも、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故がきっかけでした。当時は大学で放射線について学び始めたころでしたが、「イソジンで甲状腺がんが予防できる!」のような根拠のない情報をインフルエンサーが拡散するのを見て、「正しい知識が届かないと、恐怖だけが広がってしまう」と痛感しました。また、あの事故で発生した除去土壌は、中間貯蔵施設で保管され、基準値以下となるレベルまで処理した上で、2045年までに福島県外で再利用・処分することになっています。まさにこれからその事業が始まりますが、これは日本全体で考えていかなければならない問題です。そうしたことから、私たちも「RED-RINGプロジェクト(Radiation literacy EDucation RING)」と称して、学生たちと放射線教育の教材開発と実践に取り組んでいます。

その1つがオリジナルのカードゲーム「放射線量ブラックジャック」です。カードには生活の中で浴びる放射線量が書いてあり、放射線の発がんリスクの1つの基準とされる100ミリシーベルト(mSv)にできるだけ近づくように、トランプのブラックジャックと同じルールでカードを引いていきます。カードを見ながら放射線のリスクについて議論もできます。地域の小中高校生や医療機関、世田谷区や環境省などとも連携して、2024年度は延べ760人の方に体験してもらいました。

*放射線量ブラックジャック

*「放射線量ブラックジャック」で遊びながら議論する生徒たち

放射線を「安全だ」と言い張ることが目的ではありません。どの程度の線量でどのような影響があるのかを、科学的な数値に基づいて丁寧に伝えることを心がけています。実際に、カードゲームに参加する前後で放射線に対する印象をアンケート調査したところ、小学生からも「もっと勉強してみたいと思った」「福島の人の立場で考えられるようになった」といった回答が寄せられました。こうした活動を通じて、放射線について科学的根拠に基づき判断できる人が少しでも増えてくれればと願っています。実施した放射線教育の成果は、アンケート結果などを分析し、論文としてもまとめています。

MRIで駅伝の効果的なトレーニングも最適化できる?

私は長らくMRIの研究をしてきましたが、駒澤大学に着任してからは新しい知見や分野を自分の研究と結び付けながら、研究の幅を広げています。

放射線教育や小児医療の分野では、駒澤大学の先輩が立ち上げたNPO「Medical PLAY」の理事として、「プレパレーション(医療への心構え)」の普及を目指した活動もしています。小さなお子さんはMRIの大きな機械に緊張して検査が難しくなることがあります。必要に応じて麻酔や鎮静を用いることもありますが、その場合は薬剤によるリスク(呼吸抑制や気道が狭くなることによる呼吸トラブル等)もあるため、適切な評価と監視のもとで実施する必要があります。そこで、現役の診療放射線技師が、MRI検査の様子をレゴで再現したコマ撮り動画を作成し、事前に検査の説明をわかりやすく行えるようにしました。その結果、ある施設では検査で麻酔を使うケースが約半分程度に減りました。これは、事前の説明によって患者さんをケアするために必要な人手や時間を抑えられるという点でも、医療側にとって非常に有意義な結果です。また、診療放射線技師や小児科看護師、絵本作家の方々とチームを組んでレントゲン検査の絵本も作りました。絵本は医療機関に配布して、患者さんはもちろん、専門的な放射線教育を受けていない看護師の方々にも利用してもらっています。

*Medical PLAY監修『からだのなかをしゃしんでみると・・・!?』(ラフコネクト株式会社 2024年1月刊)

また、最近では動物のMRI検査に関する研究も行っています。ある学会で出会った先生に動物のMRIに関心があると話をしたところ「僕も獣医でMRIの研究をしている」と意気投合し、東京大学の動物医療センターと共同研究を始めました。東京大学にある動物専用MRI装置をさらに有効活用するために、これまでヒトを対象に行ってきたMRIの知見を応用しようという取り組みです。

固定観念にとらわれず、何でも吸収してテーマを繋げていくと、大きな展開が生まれるのが楽しいです。将来的には、学内にいらっしゃるさまざまな分野の先生方とも連携して研究をしたいと考えています。例えば、MRIを活用して、グローバル・メディア・スタディーズ学部の先生方と音楽と脳機能の関係を検討してみたいです。また、以前の所属先では体操のオリンピック金メダリストの冨田洋之先生と一緒にアスリートの脳機能研究に取り組んだ経験があります。こうした知見を活かして、駒澤大学の陸上競技部などとも協働しながら、駅伝やマラソンのトレーニングを、より効果的にするための方法を科学的に検討していきたいと考えています。

Profile

村田 渉講師
東京都生まれ。2014年駒澤大学医療健康科学部診療放射線技術科学科卒業。2020年順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。順天堂大学医学部附属順天堂医院、東京都立大塚病院などで診療放射線技師の勤務を経て、2021年に駒澤大学へ。2024年より現職。専門は放射線科学、磁気共鳴医学。長年にわたる医療現場での経験を活かし、研究室ではMRIの画像歪み評価や美容製品のMRI検査への影響評価、放射線治療計画用MRIの最適化などを研究。また、行政機関、教育機関、医療機関と連携して、放射線教育教材の開発やその効果測定、放射線リテラシーの向上に取り組んでいる。NPO法人Medical PLAY理事として、医療現場における課題解決に向けた活動も展開。

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