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北海道安平町と吉田健太郎ゼミが描く
持続可能な地域共創のカタチ

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経済学部 現代応用経済学科 吉田健太郎教授&ゼミ生 インタビュー

アントレプレナーシップや事業創造を専門とする、経済学部現代応用経済学科の吉田健太郎教授。企業や自治体から産学官連携に関する相談が寄せられ、地域活性化に資するプロジェクトを実践的な研究・教育として展開しています。その一環として、吉田先生は地域とともに価値を共創する実践的な研究に取り組んできました。2025年度に行われた2つのプロジェクトについて、吉田教授と、吉田ゼミの2年生〜4年生のメンバーにお話をお聞きしました。

吉田ゼミが掲げる「現場主義」

新千歳空港から約14km離れたところにある北海道安平町は、人口約7,200人、農産物や乳製品など土地の恵みを活かした名産品でも知られている町です。安平町は「地域の産業を盛り上げて、町を活気づけたい」との思いから、吉田教授に地域活性化プロジェクトを依頼されました。吉田教授は安平町に関するさまざまなデータを収集し現状を調査した上で、「地域への貢献はもちろん、学生にとって大きな学びになる可能性」を感じたといいます。

初年度は、地元食材を使った親子向けの料理教室を開催。学生たちは何度も北海道に通い、地域の方々とつながりを深めていきました。親子料理教室プロジェクトは2024年度で一旦完結しましたが、そこで見えてきた価値や新たな課題をもとに、2025年度へとつなげてきました。

吉田教授:
学生は1年で学年が上がりますが、たった1年で解決できる地域課題はそうありません。そのため、持続的・継続的に地域と関わることが重要です。そして、地域の方々による主体的な取り組みに根づかせることが真のゴールだと考えています。また、学生自身も問題意識を持ってプロジェクトに参加し、継続して活動することの意義に自分で気づく必要があります。そういう狙いから、私自身は「自分が関わりたいと思うなら、どんどん参加してほしい」というスタンスで学生たちに指導しています。ゼミに参加したばかりの2年生は「現場」で先輩たちと一緒に活動する中で、「何を目指しているのか」「どんな問題意識を持っているのか」を学んでいきます。

吉田ゼミは「現場主義」を掲げ、学生が地域経済の現場に飛び込み、主体的に学ぶアクティブラーニングを重視しています。

吉田教授:
事業創造は、単なる営利活動とは異なり、製品やサービスを開発することで地域社会がより豊かになることを目標としています。そのため、地域にどのような問題があるかを入念に調査し、地域の方々にアンケートを取り、コミュニケーションを重ねて信頼関係を作るという、地道な積み上げが大切です。学生たちは、これまでの事例や先行研究をしっかりと学んでから現場に入ります。そして理論だけでは上手く進まないギャップに出会った時に、「こういうやり方もあるのでは」と自分たちで仮説を立てながらチャレンジしていきます。

例えば、地域の現状を把握するためにはアンケート調査が必須ですが、漠然と質問するのでは意味を成しません。例えば、単に価格を訊くのではなく価格に対する満足度を測るなど、「相手の立場を考えて設計する」という調査の基本について入念に伝えています。連携先の行政や企業の方々は学びを与えてくれますが、教育者や研究者として接してくれるわけではありません。私は学生が行き詰まった時に自分自身で気づきが得られるような仕掛けづくりや、言語化の助け、調査やコミュニケーションの助言などに力を入れて指導しています。

地域に深く入り込むフィールドワーク

北海道安平町における吉田ゼミの2025年度実践研究は、2班に分かれて進行しました。

第一は、有限会社プロセスグループ夢民舎(以下、夢民舎)と連携し、地元農産物を使った新メニュー開発とそのお披露目イベント「IT’S CHEESE TIME」の開催。
第二は、名産「あびら菜の花はちみつ」を使った新商品の開発プロジェクトです。

地域活性化プロジェクトの鍵は、多くの地元関係者と丁寧な対話を重ね、地域の方々に応援される関係性を築くことにあります。また事業創造では、学生と個別の企業が「点」でつながるのではなく、地元企業や生産者の方々同士の横のつながりを生み、学生たちが抜けた後にも地域内での交流が続くことを目的としています。

吉田教授:
当事者や関わる人たち自身が成長できるかどうかが、事業創造を成功させるポイントです。ローカルの小規模企業やたった1人の起業家であっても、地元に価値を見出して自分自身が成長することで、新たな価値を生み出し、地方都市の活性化に結びつく可能性があります。

「大学の実践研究」で東京からやって来た学生に対する地域の方々の反応はさまざま。フィールドワークやアンケート調査では苦労したことも多かったそうです。

「IT’S CHEESE TIME」新メニュー開発プロジェクト

坂田愛実さん(4年):
安平町の方々とはオンラインでの打ち合わせが多く、細かなニュアンスを伝えるのが難しくもどかしい思いをすることもありましたが、議事録を丁寧にまとめることを心がけて、お互いの認識にズレが生まれないように工夫しました。貴重な現地訪問では「この一回が勝負だ」という気持ちで念入りに準備して臨み、できるだけ多くの方にお会いして直接お話しするようにしました。

堀本陽斗さん(4年):
日程調整ひとつにしても容易ではなかったです。現地の皆さんとのコミュニケーションもそうでしたが、ゼミのメンバー間でも就職活動などで時間的な制約があり、足並みを揃えるのに苦労しました。焦りを感じるときもありましたが、吉田先生の「人と向き合う」という言葉を受けて、一人ひとりの状況や背景を理解して対話を重ねながら柔軟に対応できるようになりました。

写真左:堀本 陽斗さん 写真右:坂田 愛実さん

地元の人にとってなじみの特産品や農作物を、外部から来た学生がメニューを開発して新たな価値を生み出すことのは、相当に理解を深めて共感を呼ぶ活動をしないと難しいものです。そこにあえてチャレンジした背景には、これまでの2年間で感じていた課題を克服したいという思いがありました。

坂田愛実さん(4年):
親子料理教室は地元の皆さんに楽しんでいただけましたが、地域活性化の効果としては一過性の域を出にくいという課題がありました。私たち駒澤大学との関係性が終了したら、親子料理教室はおそらく開催されなくなり、また、生産者様と夢民舎とのつながりも弱くなってしまうのではないかと考えました。そこで、私たちが抜けても続けやすい地元色の強いメニューを作ることにしました。今回は冬向けのメニューにしましたが、季節ごとに旬の食材を組み合わせるコラボレーションを展開して、継続しやすい仕組みを狙いました。

また、お披露目会場として選んだ、夢民舎様の直営レストランは、町内で人気があるだけでなく町外からのお客様も多い名店のため、安平町の新たな価値を外部にも発信できる広報的なメリットにも期待しました。

堀本陽斗さん(4年):
私と坂田さんは2年次から安平町プロジェクトに参加してきたこともあり、前年度までに先輩方が築いてくださった信頼が今年度の成果に結び付いている実感があります。当初、地元企業の方の中にはプロジェクトに消極的な方、学生の取り組みとして応援してくださってはいても自分事としてとらえるまでの積極性はない方もいらっしゃったのですが、現地を訪れて対話を重ねる中で、相手の感情や温度感をくみ取れるようになり、無理のない提案を重ねていくことで少しずつ関係が変化していったように感じています。

今日も、先ほど都内に出張で来られている夢民舎の社長にお会いしてきました。「次のコラボはいつにしよう?」などと計画を立ててくださっているようで嬉しいです。また、地元生産者同士の小さな交流の場づくりはできたのではないかと思います。とはいえ、生産者の方々が企画段階から自発的に関われるような仕組みづくりは今後の課題です。後輩たちに引き継いでいってもらえたら嬉しいです。

「あびら菜の花はちみつ」を使った新商品開発プロジェクト

岡 悠馬さん(2年):
安平町の新たな名産品を開発するこのプロジェクトは2年生と3年生で活動し、私はプロジェクトリーダーを務めました。初めてのフィールドワークで「自分が知らない土地にも人がいて生活がある」という当たり前に気づいたことが最初の発見でした。商品開発において「売れる商品」を考えることは、買ってくれる人たちについて考えることです。そのため、参与観察(コミュニティの内側に身を置く社会調査手法)に注力しましたが、最初はアンケートに協力していただくのに苦労しました。吉田先生に指導していただき、「どこで誰にアンケートを依頼するべきか」「自分たちはどのような情報を求めているのか」という基本的な前提の見直しに加えて、アンケートやヒアリングを受ける相手の立場を考えて実施方法を工夫したところ、大きく改善できました。

北林将成さん(2年):
プロジェクト開始当初は産学連携の枠組み自体への理解が浅く、企業の方のペースに委ねてしまっていました。私自身も「安平町の知名度を上げるためには、おいしくてSNS映えする商品を作って話題になればいい」と単純に考えていたのですが、ビジネスとして商品開発を進めるためには、資金面での制約があり、適正な価格の設定や継続性の課題があることに気づきました。しかし企業や行政で活躍されている社会人の方に向かって、学生の自分たちが率直に意見するのは難しいところがありました。
吉田先生から「産学連携は学生のアイデアを形にする場ではなく、学生が専門的な知識や視点を提供して、その成果を社会に還元する場です」とアドバイスしていただいたことが潮目となり、データや事例を根拠とした提案を準備し、自分たちが抱いていた違和感を率直に伝えることができました。今では、学生と企業の方という立場は違うものの、お互いに尊重しながら同じ熱量で議論できるようになりました。

細田知宏さん(2年):
最初は、私たちと安平町側でプロジェクトの進度を合わせることに苦労しました。形式的なミーティングや事務連絡だけでは壁を感じたため、SNSを利用するなどフランクな対話を試みましたが、それでも物理的な距離が高いハードルになっていました。

しかし実際に安平町を訪れてみると、画面越しでは感じ取れずにいた「人のあたたかさ」や「地元への誇り」に触れることができ、また、道の駅や特産品を直に体験できたことで方向性が定まりました。特に町長との対話では、リーダーの人柄や行動力が地域経済を牽引する原動力になっている様子を肌で感じられて、地域活性化の真髄を見たように思います。

写真左:北林 将成さん 写真中:岡 悠馬さん 写真右:細田 知宏さん

北林将成さん:
将来的には開発した商品の海外展開を目指しています。来年度以降はグローバルを見据えながら、ローカルに根ざした活動を続け、まずは試作品の開発から始めていくつもりです。

プロジェクト総括と学生たちの成長

1年間を振り返り、吉田教授は学生たちの成長を高く評価しています。

吉田教授:
地域活性化は、外から人を呼び込めばいいという単純な話ではありません。地元の方々、その地に住み続けていく方々の自発的な行動に結びつかない限り、持続できません。そこに学生自身が気づき、工夫を重ねていった姿勢に感心しました。

安平町に限らず、日本全国で、「小規模な地域であっても横のつながりが弱い」という課題を抱えている地域が多くあります。市町村のWebサイトには「つながりが強い町」と書かれていても、実際のフィールドに出てみると違うことがあると気づきます。

地域に入り込んで地元の方々と積み上げる時間の中には、教科書には書いてない学びがあります。学生たちが予想しなかったような苦しい場面も多くありました。それでも最後まで前向きに取り組み続けたことが成果につながり、地域にとっても単に「ゼミの研究を受け入れた」だけではなく、地域の方々が主体となって動き出すきっかけになったのだと思います。

学生たちはフィールドワーク以外にも、事例や先行研究を学び、少なくとも月に一度の全体指導で鍛えられながら、専門的な知識という根拠を得て地域に持ち帰っていました。その繰り返しを経て、本当に成長したと思います。

2年次に初めて安平町を訪れて地域の温もりに感動したという熊谷さんは、吉田ゼミでの連携プロジェクトを通じて自分自身の成長を振り返ってくれました。

熊谷愛菜さん(3年)
現地に足を運んでゼロイチを生み出す吉田ゼミは、全員が主体的に動くことが求められる環境です。私は新しい物事に挑戦するのが苦手な自覚があり、それを克服して成長したいと思って安平町プロジェクトに飛び込みました。

フィールドワークでは町長や行政の方と直接お話しする機会がありましたが、緊張してしまい、積極的に発言することができませんでした。「もっと関わりたい!」という思いは、実行に移してこそ意味があるものです。今は、小さな場面でも自分の考えを言葉にして行動に移すことができるようになりました。吉田ゼミでの学びを通じて、「主体的に取り組むこと」の難しさと、自ら動いたからこそ得られるやりがいの大きさを実感しています。

写真前列左から2番目:熊谷 愛菜さん

吉田教授は、「地域活性化は大学が一時的に関わるだけでは意味がありません。学生が地域の方々と向き合いながら学び、その経験を将来の社会活動へとつなげていくことこそ大学教育の価値だと考えています」と語ります。

これからもさまざまなフィールドで、吉田ゼミの「現場主義」の学びは続いていきます。

  • 取材内容は2026年2月時点のものです。
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